ショートエッセイ集『楽しむマナー』を楽しむマナー!感想文

『楽しむマナー』を読んだ。

楽しむマナー

紹介文

人が喜ぶおごられ方から天寿を全うする方法まで、人生のあらゆる場面で出くわすマナーの難題を作家・歌手・科学者十三人がするっと解決!愛を温めたい、気まずい空気を消したい、プロフェッショナルな仕事をしたい…この一冊が、大人の悩みを解きほぐす。しんどい心のコリに効く、楽しいマナー考。(引用:amazon)

紹介文では、

マナーの難題をするっと解決!

なんて書いてあるが、この本は

【自分なりの好みや思考をエッセイの形で楽しく話してくれるショートエッセイ集】

なので、別に何も解決はしない。謎の解決詐欺はやめて欲しい。

特に厳しいテーブルマナーなどを楽しく理解できるような勉強本ではないし、問題ごとも解決されないが、単純にニヤリと読めて楽しい気分にさせてくれる文章が多い。

著者の皆さん

作者はスーパーゴージャス!

  • 竹内 久美子さん
  • 荻野 アンナさん
  • 乃南 アサさん
  • 藤原 正彦さん
  • 高野 秀行さん
  • さだ まさしさん
  • 酒井 順子さん
  • 綿矢 りささん
  • 角田 光代さん
  • 逢坂 剛さん
  • 東 直子さん
  • 鎌田 實さん
  • 福岡 伸一さん

凄いメンツ・・・。

作家さんに限らず様々な分野の著名人が参加しているが、やはり、作家さんの文章の方が、すんなりと頭に入ってくる気がするのは、心の持ちようの問題だろうか。

というわけで、『楽しむマナー』を楽しむマナーとしてネタバレ感想気に入ったマナーをおすすめしてみたいと思う。

全員分は紹介しないが、気に入ったものからどうぞ。

ベストテンのマナー|逢坂剛

あるいは、個々の回答者のベストテンを、そのまま提示するのが、最善の方法かもしれない。

単純に昔読んで驚いた作品、ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』が登場したので目に留まった。

確かにこの作品はアンフェアだが、主人公が追い詰められていく様子に感情移入して読むと、これ以上ないほどの焦りと興奮を味わえる名作だ。

てか、他の作家と違って逢坂さんだけは、読者を楽しませる為ではなく自分の自己顕示欲を満足させるために文章を書いている気がして、総じてあまり気分が良くなかった。後半なんて、もう、ひどいんだから。

ケチのマナー|酒井順子

見ている側の人も、「ああ、これはこの人の癖なのだな」と、見守ってあげることも必要なのでしょう。

ケチとエコの境目は曖昧・・・そいうか、そんな境界は存在しておらず、好意的に捉えればエコだし、否定的に捉えればケチという心象の問題かもしれない。

他人のケチをエコや癖と捉えられる余裕のある人間として生きていきたいものだ。

焼肉のマナー|角田光代

私の思うマナーはひとつだけ。焼いた肉はいちばんおいしい頃合いに食べないといかん。

角田さんはきっと世の中の様々なものに深く思考を働かせてしまう人間なのだろうな、と感じたマナー。

美味しい焼き肉を頭を空っぽにして「うまそー」とテンションをあげて食べることを大切に思っているということは、普段から真摯に世界と向き合っているからなんだろうな、と。内容に反してしみじみしてしまった。

味噌汁のマナー|高野秀行

「昆布がちがうと味噌汁は別物になる」

スーダンのご家族にダシから作った日本の味噌汁を飲んでもらう話。

読んでいると平和で和む話になっていて味噌汁を食べているスーダン人の家族が喜んでいる様子から、味噌汁の味が想像できて美味そう。

エレガントに闘うマナー|角田光代

そう、テレビをじっと見るように。

クレーム電話での怒りをクレバーに分類して、さらにそれぞれの対処方法についても書いてある名文。

20怒っていることを伝えるために、100怒ってみせるのはエネルギーがいるよなぁ・・・。

最後の文章に角田さんの恐ろしさを感じてしまった。

欠点のマナー|角田光代

人と人が関係を結ぶときは、もしかしたら美点によってかもしれない。けれどその関係を深めていくのは、美点ではなく欠点なのではなかろうか。

角田さんの文章は本当に面白い。誠実で読みやすく力強くてユーモラス。尊敬してしまう。

奇抜なことを強い言葉で書き表すのではなく、普通の言葉で心の中心を押し込まれるような文章にはため息が出る。

この「欠点のマナー」はこの本の中で一番好きな文章かもしれない

バトンリレーのマナー|鎌田實

バトンを受け取った者はだれかに渡すとき、あたたかさの温度を少し高めて渡していた。

バトンリレーとは比喩。実際は震災後の福島におけるボランティアの話。

誰かの為に何かをして、何かをしてもらった誰かはまた誰かのために何かをする。優しさのバトンだ。

行動を起こしている人を見ると勇気が湧くものだ。

長寿のマナー|鎌田實

長生きランキングの順位は大事ではあるが、数字だけ覚えていても仕方がない。

なるほど!と手を打ったマナー。確かに長寿の県だと騒いだところで意味がない。

このランキングの活かし方は、その上位の県から何を学び取ることが出来るのかにかかっているのだろう。

臨終のマナー|鎌田實

死を考えると、不思議なことに、かえって生が充実してくるのだ。

この言葉は本当に名言だと思う。死を意識することで生の価値が高まるというのは本当にその通りだと思う。

悲しい別れではなく、ちょっと笑ってもらいたいというのも良くわかる。

どうせだったら友達や家族に、くだらねぇなぁと笑われながら逝きたいなぁ。

同窓会のマナー|藤原正彦

「あーら。うれしいっ。そうだったんですか。あーあ、もっと早く言って下さったらよかったのに。本当に残念」

同窓会であの頃、君に憧れていたんだ。なんて言って口説く奴は本当にいるのだろうかと思っているが、これを読むといないこともないのかと悩んでしまった。

でも奥さんに話してポカスカ話している感じがとても素敵な夫婦に見えて微笑ましい。

読書のマナー|酒井順子

堂々と本のタイトルを見せながら本を読む人を見ると、胸の谷間を堂々と露出している女性を見るような気分になる私。それは「全く悪いことではないのだけれど、目のやり場に困る」

面白いマナー。

僕は逆に電車に乗っている時に他人様が読んでいる本がとても気になる人間なので、読んでいる本のページの端っこだけでも覗き見てしまったりする。

その本が僕の好きな本だったりしたら、同郷の人間に出会ったかのような気持ち悪い親密さを勝手に感じている。

胸の谷間を覗きみるよりは、いくらか健全だと思っているのだが・・・。

風邪のマナー|酒井順子

しかし咳やくしゃみというのは排泄行為の一種であり、排泄行為というのは何であれ、本人にとっては気持ちが良くても、他人にとっては迷惑なもの。「風邪の自分」像にうっとりできるのは、自分だけなのです。

いるんだよねぇ。すげー体調不良アピールしてくる奴。

本当に体調が悪い人は仕方ないけれど、セルフプロデュースに体調不良を使うなと激しく問いただしたいところ。

ちろちろのマナー|乃南アサ

車内で堂々と週刊誌のヌードグラビアやスマホのエロサイトを覗いている人、あれは本当に近くにいて不快になります。

電車内でのマナー違反者を「じろじろ」ではなく「ちろちろ」と観察し続けるというマナー。

スマホのエロサイトはさ、まぁ、なんというか、その、ごめんなさい。

おごられるマナー|角田光代

なるほど、おごる、おごられるというのは金銭のやりとりばかりでなく、社交という文化でもあるのだなと気づかされた。

僕もおごられるのが苦手な人間だったので、強いシンパシーを覚えてしまった。

伝票を持ってのおごるおごられるのやりとりは第三者から見ていると少し不快に見えることがある。

スマートにおごられるにはどうしたらよいのだろうか?

図々しいキャラクターを刷り込んでおくというのも悪くない案だと僕は思っている。

宿題のマナー|角田光代

「もちろんぎりぎり派だよ」、これは大人の会話のマナー。

夏休みの宿題をギリギリにやるか早めにやるかを問われた時の考え方。

宿題にまつわる思い出話も面白いし、この話の締めくくりも素敵。

もう角田さんが社会のルールを全部作ってくれればいいのに、笑。

年賀状のマナー|角田光代

鈍感な人、繊細な人、こちらの都合を考えてくれない人、そんな人たちのなかで、私たちは揉まれたり揉んだり、傷ついたり傷つけられたりして日々過ごしているのではないか。

年賀状をおくるという行為のおくり手と受け手の心情をおもんばかる内容。

他人に対して何かを発信するという行為は、どこかで誰かを必ず傷つけているという認識を持つこと。

その上で、お互い様だよね。という大らかさを持つ必要があるのかもしれない。

この文章もいい言葉の選択だよなぁ・・・。さすが角田さんだよなぁ・・・。

最後に

なんだか、角田光代さんへの賛美がとまらない感想になってしまった、笑。

内心では、

「もうこれ角田さんだけがエッセイ書けばいいんじゃね?」

なんていう結論を抱いていたとしても、それを強い言葉で発信しないことも読書家のマナーだとは思っている。

でも、素敵な文章が多いので、皆さんもぜひ読んで見てもらいたいかな。

ちなみに、この本は二作目で、前作は『考えるマナー』という作品だ。

気に入った方は、ぜひそちらもどうぞ!!