読後感が最悪な胸くそ悪い小説こそ読むべきだ【18作品】

  • 2021年6月29日

※2018年12月14日更新

本を読み終わったあとに胸クソ悪くなる作品は、世の中にたくさんある。

何故わざわざ時間をかけて本を読み、嫌な気持ちになる必要があるのか、理解できない人たちもたくさんいる事だろう。

そんな方々に勘違いしてもらいたくないのは、そういった作品たちはあくまでも”不快になる”だけで”面白くない”わけではないという事。むしろ、不快になるだろうなぁ…とわかっているのに最後まで読ませられてしまうような、面白さの結晶のような作品であるということだ。

ルール

  • 実際に読んで面白かった小説をランキングではなく順番はランダムで紹介する[随時更新]
  • 現在個別ページがない作品もいずれ個別ページを作成し、映画、ドラマ、漫画、アニメなど、他の媒体になっているなどの詳細情報はそちらに
  • 基本的には良い部分をフォーカスする。気になった点は個別ページに書く
  • あらすじ・ストーリーは基本amazonからの引用で読んだ時に最大に楽しめるように基本的に重大なネタバレなし
  • ダラダラと長い記事なので目次を活用してもらえるとありがたい

新しい作品との出会いのきっかけになれば嬉しく思う。

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ボトルネック #米澤穂信

恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。

感想

ホロ苦い青春小説を書く米澤穂信だが、その中でも一番心が沈む青春パラレルワールド作品。主人公・リョウという存在が自らと周囲の人間を不幸にしている事実を圧倒的に見せ付けられるという拷問のような話。特に最後のシーンの辛さといったらなく、海を目の前にして開けている場所のハズなのに、逃げ道のない圧倒的な閉塞感がある。リョウが追い詰められて最後のメールが届いた時、ここにきてさらに不幸が重なることで、絶望と破滅への道が決定した事への安心感を得るという不思議な感覚におちいる。救いの無さすぎるこの物語においては、それすら小さな救いに感じてしまった。リョウに関わったことで、サキの心にも何かしらの傷が残った気がしてそれがまた哀しい。

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向日葵の咲かない夏 #道尾秀介

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

感想

ザラついた大きな舌で首の周辺を舐め回されているような読書感覚を感じる怪作。賛否あるようだが僕は好き。主人公・ミチオを含め、登場人物がみんな気持ち悪く、全編を通じて圧倒的な閉塞感と嫌悪感があり、まるで自分がジャムの瓶にいれられて観察されている気持ちになってくる。それなのにページをめくる手が止まらない魅力に溢れているから素直にすごいと思う。生まれ変わりのある心霊ものなのか、ミステリーなのかも作品の見所の一つなので、語られる言葉のどこまでが信用の置ける言葉なのかを考えつつ読むことを薦めたい。

残虐記 #桐野夏生 

自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。柴田錬三郎賞受賞作。

感想

胃の中に重りを入れられたような桐野作品。人間は何かを経験し、その対価として何かを手に入れる。そしてその経験があるからこそ意見が生まれるはずなのだが、桐野夏生は経験をしていないはずなのに、こんなにも暗く狭い人間の底を見てきたかのような文章をかけるのか。そんな驚きと共に作者の人生そのものに興味が沸いてしまうような作品。“残虐”とは誰が誰に行っている行為なのだろうかと考えてしまった。ちなみに気に入っている言葉は「与えられた傷が深ければ深いほど、善意と同情でさえもさらに傷を抉る

ずっとお城で暮らしてる #シャーリィ・ジャクスン

あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。

感想

少女・メリキャットの視点を通して『悪意』と『狂気』の世界を描く物語。読後感どころか、全体を通して虫唾が走る不快感に溢れており、登場する村人たちから浴びる視線と言葉は読んでいて辛く、妹・メリキャットと共に屋敷で閉鎖的に暮らしていく姉・コンスタンスの絶望感や、狂気に触れていく様子は嫌悪感を通り越して禍々しさを感じるほどだ。それとも狂気に触れた姉妹はもはや幸せなのだろうか。不快な音だけで構成されているのに、同時に見事に完成された音楽を聴いているような、ある種の美しさを感じる不思議な作品。

果てしなき渇き #深町秋生

元刑事・藤島秋弘のもとに、失踪した娘の加奈子を捜してほしいと、別れた妻から連絡があった。家族とよりを戻したいと願う藤島は一人、捜査に乗り出す。一方、三年前。中学生である瀬岡尚人は手酷いイジメにあっていた。自殺さえも考えていたところを藤島加奈子に救われる。彼は彼女に恋をし、以前、彼女がつきあっていた緒方のようになりたいと願うようになるが…。二つの物語が交錯し、探るほどに深くなる加奈子の謎、次第に浮き彫りになる藤島の心の闇。用意された驚愕の結末とは―?『このミステリーがすごい!』大賞第3回受賞作。

感想

暴力、性衝動、ドラッグが作中に溢れかえり、救いに関しては極端に少ない問題作。父親である主人公・藤島のクズっぷりも、ここまでくると清々しくすら感じられるのが不思議。二つの物語が交差するにあたり、善人が救われることもなく、誰も幸せにならず、ただ暴力と悲しみだけが残る。そして作中で一番のクズが、残りの人生で渇き続けるしかないという結末が、ある意味では何よりの救いなのかもしれない。良い話ではないが、正にしろ負にしろ感情が揺さぶられる作品に魅力を感じるのだと再認識できた作品でもある。

絶望ノート #歌野晶午 

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中2の太刀川照音は、いじめられる苦しみを「絶望ノート」と名づけた日記帳に書き連ねた。彼はある日、頭部大の石を見つけ、それを「神」とし、自らの血を捧げ、いじめグループの中心人物・是永の死を祈る。結果、是永は忽然と死んだ。が、いじめは収まらない。次々、神に級友の殺人を依頼した。警察は照音本人と両親を取り調べたが、殺しは続いた。

感想

エグめなタイトルだが『葉桜の季節に君を想うということ』で有名な歌野晶午作品。叙述トリックの印象の強い作家なので、警戒して読んでしまうのが玉に瑕で、本の厚みの割に内容が薄い印象を受けてしまったのは残念なところ。ただし、学生の時に味わったスクールカーストの辛さや、年齢特有の汚さのようなものを思い出させるあたりは流石で、全体を通して嫌な気分にさせてくれる作品。ラストに因果応報が待っていることを考えると、他の作品に比べてそこまで悪い読後感でもないのかもしれない。

神様ゲーム #麻耶雄嵩

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神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか、謎の転校生・鈴木太郎が犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか。神様シリーズ第一作。

感想

麻耶雄嵩のミステリーランド作品。衝撃の展開からさらに衝撃の展開へ進み、最後の最後には思わず息をのんでしまった。子供に読ませるのは少し、いやかなり抵抗があるが、子供も大人も楽しめるレーベルになっているので難しい所。読者が神様と名乗る鈴木君の存在を信じるのか、論理性を重んじるのかによってエンディングが変わるリドルストーリーの側面を持つ作品。ちなみに僕は神様を信じるエンディングを信じている。また、ラストに関してはしっかりと考えることで胸くそ悪くなるという時限爆弾式の胸くそ悪さが味わえる。気に入ったら続編にあたる『さよなら神様』も是非。

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殺人鬼フジコの衝動 #真梨幸子

一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして、新たな人生を歩み始めた十歳の少女。だが、彼女の人生は、いつしか狂い始めた。人生は、薔薇色のお菓子のよう…。またひとり、彼女は人を殺す。何が少女を伝説の殺人鬼・フジコにしてしまったのか?あとがきに至るまで、精緻に組み立てられた謎のタペストリ。最後の一行を、読んだとき、あなたは著者が仕掛けたたくらみに、戦慄する!

感想

上記の”最後の一行を、読んだとき~“のように帯の煽りが大げさすぎて作品に悪影響を及ぼす悪い見本のような作品だが、内容にのみ集中して読めば大変面白く、若干『嫌われ松子の一生』に近い印象を受ける作品になっている。全編通じてフジコの心の弱さと犯罪者としての頭脳のチープさが垣間見え、その考え方の浅はかさが妙に理不尽で猟奇的に見えるので、作品のエグさを引き立てている。また、実は小学生女子のヒエラルキーが一番残酷なことと、”あとがき”に関してはまったく予想してなかったので背筋が凍るほどの恐ろしさを感じてしまった。一度読み終わった後に読み返さないと真相にはたどり着けないかもしれないので、じっくり考えて嫌な気分を味わってほしい。また隠された謎が明らかになる『インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実』という続編も出ている。

告白 #湊かなえ

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我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。

感想

あまりにも有名な湊かなえの出世作。救いのない読後感もそうだが、全体的に他人に対する悪意ばかりで辛くなってしまう物語。一人称の会話のみで物語が進んでいく様が恩田陸『Q&A』のようでもあり、犯人の心理描写の描かれ方は宮部みゆき『模倣犯』ようでもあるので様々な傑作の要素を感じられる完成度の高い作品。森口先生の抑えきれない憎しみの毒がコップからチョロチョロと溢れるように言葉の端々に滲み出ていた。悲しみと憎しみの連鎖が起きているのに、ブラックユーモアのような雰囲気があり、起きてる出来事とのギャップを感じてしまう所がこの作品の魅力なのかもしれない。僕は嫌な気持ちになったが、人によってはスカッとしてしまうかもしれないラストシーンも注目してほしい。

嫌われ松子の一生 #山田宗樹

三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。

感想

とにかく松子が人生を転落し、続けて落ちて落ちて落ちまくる様子を描いたミステリー?作品。松子が決定的に判断力が欠けている事や考え方の稚拙さ、毎度クソ男に引っかかり、愛を叫んで陶酔し、状況の悪化に気が付いてからそれを打開しようとする手がまた悪手という負のスパイラルが繰り返されるので、自己投影して読むとくらくらしてしまう笑。しかし、同時に自分の人生の”理不尽“と向かい合って生きている強さを持った人物にも思えるので、最後の裁判のシーンでは甥の笙と共に、松子の人生に心を痛めることになる。無残でやりきれない結末だが、救いもあるので読後感が”最悪”とまでは言わないかもしれない。面白いです。

他人事 #平山夢明

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交通事故に遭った男女を襲う“無関心”という恐怖を描く表題作、引きこもりの果てに家庭内暴力に走った息子の殺害を企てる夫婦の絶望(『倅解体』)。孤独に暮らす女性にふりかかる理不尽な災禍(『仔猫と天然ガス』)。定年を迎えたその日、同僚たちに手のひら返しの仕打ちを受ける男のおののき(『定年忌』)ほか、理解不能な他人たちに囲まれているという日常的不安が生み出す悪夢を描く14編。

感想

平山夢明作品はほとんどの作品が不条理で胸糞悪く、読後感の悪さを楽しめる作品ばかりだが、”グロさ“ではなく”読後感の悪さ“を意識するのであれば、この悪夢のような作品を薦めてみたい。人が人に無関心であることはこれほど恐怖を生み出すのかと思うと恐ろしくなる内容で、心の準備もなく、どんな内容かも知らずにこの本を読み始めてしまったら、心にダメージを負っていたであろうクソったれな傑作ばかりなのでぜひ読んでもらいたい。ちなみに漫画家の富樫さんが解説を書かれており、その内容も秀逸だ

密室殺人ゲーム王手飛車取り #歌野晶午

〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉。奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである……。リアル殺人ゲームの行き着く先は!?歌野本格の粋を心して堪能せよ!

感想

本当に殺人を犯してそれを推理クイズの形式にしてチャットで出題し合うキ○ガイ集団の話。奇抜な発想と倫理破綻した人間関係が面白いのだが、読むタイミングを間違えると彼らの無邪気に殺人を犯していく様が残酷すぎて心がつらくなってしまう。しかし同時に推理ゲームとして素晴らしい完成度の作品(特にコロンボ氏の出題)になっているので、胸くそ悪さを乗り越えた傑作と言っていいかもしれない。続編として『密室殺人ゲーム2.0』『密室殺人ゲーム・マニアックス』があり、あともう一冊発売されるとの噂あり。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet #桜庭一樹

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

感想

読みはじめから頭をガツンと殴られて、そのあとはジワジワ首を絞められているような読書感覚を味わう作品。転校生の藻屑と、物語にまとわりつく不気味で気色悪い雰囲気が独特で、『向日葵の咲かない夏』に似たネットリ感を感じてしまう。ちなみにタイトルの “砂糖菓子の弾丸” とは、現実と闘う為の実弾(金や立場)を持つことが出来ない子供が、砂糖菓子の弾丸という名の現実逃避でしか生きていけない様子を比喩したものだ。読者が変えようのない事実を厳しく突きつけられている内容なので、問題提起を通り越して責められているような気持ちにさえなってしまう。しかし、作者から込められた想いは確かな応援だと、僕には思えた。

悪の教典(上下) #貴志祐介

悪の教典 上 下 / 文藝春秋 / 貴志祐介【中古】2冊セット

晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき―。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。

感想

読後感が最悪な小説として紹介しているが、同時に謎の爽快感を感じるサイコパス作品。人気教師であるハスミンがクラスの生徒を殺しまくる胸くそ展開にもかかわらず、読みながら殺人者・ハスミンにシンパシーを感じてしまい、自分に問題があるのではないかと心配になってしまう。しかし、多くの選択肢がある中で自らが選ばない選択をハスミンが選び続けていくことで徐々に気分が悪くなっていき、物語の終着点もただひたすら気分が悪くなるのでご注意を。ちなみに、巻末作品のアクノキョウテンにもある意味衝撃を受けるので、ぜひどうぞ。

残穢 #小野不由美

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この家は、どこか可怪(おか)しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が……。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢(けが)れ」となり、感染は拡大するというのだが──山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!

感想

山本周五郎賞受賞作品。残穢(ざんえ)は小説作品だが、主人公は作者・小野不由美を連想させ、実在する平山夢明氏や福澤徹三氏を登場させることで、暗にドキュメンタリー小説であることを表現している。主人公はあくまでも冷静で現実的な人物。下手に恐怖は煽る文章ではなく、それでいて読者には残った穢れと不吉な出来事の関連性を強く意識してしまう。わかりやすい恐ろしさではなく、真夜中にふと目が覚めた時にこの本を思い出して、少しずつ精神を削り取られるような読書感覚を味わうため、読者を選ぶかもしれない。この作品が自宅の本棚に入っていると思うと、作中から生まれる不穏な何かに自分自身が汚染されていくような感覚になってしまうので、読み終わっても嫌な感覚がじっとりと残る怪作。

乱反射 #貫井徳郎

幼い命を死に追いやった、裁けぬ殺人とは? 街路樹伐採の反対運動を起こす主婦、職務怠慢なアルバイト医、救急外来の常習者、飼犬の糞を放置する定年退職者……小市民たちのエゴイズムが交錯した果てに、悲劇は起こる。残された新聞記者の父親が辿り着いた真相は、法では裁けない「罪」の連鎖だった! モラルなき現代を暴き出す、日本推理作家協会賞受賞作、待望の文庫化!

感想

罪とも呼べないような小さなエゴイズムが重なっていくことで一人の無垢な幼児の命を奪う事故を引き起こす話。誰かが突出して悪いわけではないのだが、誰か一人が自覚を持って行動していれば避けられたかもしれないと思うとやり切れない。読み初めから何となく予想はつくのだが、父親が自分自身も同じ穴の狢であったことを自覚し絶望する姿はモヤモヤして本当に救いのない結末だ。だが、視点を変えれば救われているともいえるこの結末は、読み終えた後に読み手の心に一石を投じてくれる名作と呼びたい作品だ

望み #雫井脩介

東京のベッドタウンに住み、建築デザインの仕事をしている石川一登と校正者の妻・貴代美。二人は、高一の息子・規士と中三の娘・雅と共に、家族四人平和に暮らしていた。規士が高校生になって初めての夏休み。友人も増え、無断外泊も度々するようになったが、二人は特別な注意を払っていなかった。そんな夏休みが明けた9月のある週末。規士が2日経っても家に帰ってこず、連絡する途絶えてしまった。心配していた矢先、息子の友人が複数人に殺害されたニュースを見て、二人は胸騒ぎを覚える。行方不明は三人。そのうち犯人だと見られる逃走中の少年は二人。息子は犯人なのか、それとも…。息子の無実を望む一登と、犯人であっても生きていて欲しいと望む貴代美。揺れ動く父と母の思い―。

感想

自分の息子が殺人の加害者として生きているか、無実の被害者として死んでいるのか。そのどちらが自分たちの”望み”なのかを自問自答する家族の話。共に過ごしてきた息子がそんな事件なんて起こすはずがないという心と、例え犯罪者であったとしても生きていて欲しいと願う心がせめぎ合い家族を追い詰めていく。それぞれの意見は正解とも不正解とも言えないが、残酷で取り返しのつかない圧倒的な現実の前では、どのような”望み”を持っていようとも、大差ないのかもしれないと感じてしまう作品。読み終えたときに残るのは、ただ無力感しかない

死刑にいたる病 #櫛木理宇

鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也(かけいまさや)に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」地域で人気のあるパン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、事件の再調査を始めた雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていき……一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは。

感想

シリアルキラー榛村大和に冤罪の証明を頼まれた大学生・筧井雅也の話。猟奇殺人犯に会いに行き、調査を進める展開を読むとどうしても『羊たちの沈黙』を思い出してしまうが、クラリス同様、異質な存在に魅せられて徐々に精神を支配されていく主人公の描写は見事だった。また、主人公の精神が揺れて表裏のどちらに転ぶのかわからない展開も非常に楽しめた。物語は綺麗に終わるかと思いきや、ラストにまたしても一筋縄ではいかない展開が待っており、物語の最後のページのその先を想像してしまう結末も素晴らしかった。ハッキリ言って気分は悪いけどね、笑。

最後に

以上となる。

不快な小説を読むと、不幸の疑似体験ができる。すると、自分が息をして、家族や友人に囲まれて”普通に暮らしていること”がどれだけ幸せなことかわかる。僕たちはもしかすると忘れがちになる”普通の幸せ”を再確認するために不快になる小説を読んでいるのかもしれない。

普通の日常に飽きがきているアナタに是非読んでほしい作品たちになっている。是非どうぞ。

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