5年ぶりに会った高校の同級生が未だに初恋を忘れられずにいた

【飲み放題1,980円〜!!】そんな宣伝文句は下戸の私に通用しない。若者が行き交う池袋の夜、約5年ぶりに高校の同級生岡野君との再会を果たすため、私はここに立つ。四方からはこの歳になると騒音にしか感じない煩い音楽が聞こえる。

「オイッス!」

周囲の若者とは異なるオッサンが私に声を掛けてきた。岡野君だ。高校時代からチビ&デブの2冠を獲得し続けていた岡野君のヘアは寂しくなっており、近い将来のチビ&デブ&ハゲの3冠も見えてきた。

飲み屋へ入り着席すると、岡野君は開口一番に「最近どうよ?」と偉そう。デブなのに。

1999年の夏。高校3年生だった私と岡野君は腐っていた。将来に向けて皆が自分の進路で悩んでいる中、クラスメートの女子をランク付けして女成績表なるものを作り、月1ペースで男子生徒に配っていた。この成績表、うろ覚えだが項目は以下の通り。

・可愛い(美人)
・学力
・所属する派閥グループ
・運動神経
・部活
・お昼ご飯(食欲)
・乳
・スカートの丈
・髪の染め具合
・清潔度(口臭含む)
・性格
・走り方
・クロールの息継ぎ時の顔
・エロ度

『よくもまあ非モテの分際で偉そうにこんな成績付けたもんだ』と思った方。正しいです。ただ、当時の私達は男子生徒の期待に応えるため、時に熱く時に激しくディスカッションし、時間がかかる時は明け方まで話し合う程に力を入れていたのも事実。青いね。

成績付けだが、顔も可愛く性格も良いモテ女は毎回上位にランクインされるのでトップ3の顔ぶれに大きな変化はない。強いていえば彼氏が出来ると一気にランクダウンする。そして下位。下位争いは熾烈を極める。まず、なんといってもビジュアル面が如何ともし難いので、採点前から可愛い子に大幅にリードされるという酷いレースだったことは容易に想像できるだろう。そこから上位に食い込むのはポイントの積み重ねが重要な鍵となる。

夏休みが終わった9月上旬、2学期最初の採点会が岡野君の自宅で開かれた。

「◯◯さんはやっぱり首位安泰だわ」
「◯◯さん髪黒くして可愛くなったよね?」
「やっぱり?俺も思った笑」
上位者の選定はいつもの様に穏やかなムード。

しかし、神セブンを選出した後に事件が起きる。

それは私も岡野君も一学期の間ずっと最下位かビリ2にランク付けしていた近藤さん(仮名)に対し、岡野君は10位と飛躍的なランクアップさせていたのだ!ちなみに当時クラスに女子は30人。10位となればAKB48なら次のシングル選抜メンバーという順位。なぜだ?私は岡野君に疑問を投げかけた。

岡野君は「こないだ話したら意外に面白い人だったんだよ笑」とのこと。疑問は消えない。岡野君と近藤さんが話しているシーンに遭遇したことはないし、そもそも私は近藤さんの笑顔を見たことがない。クラスでは常につまらなそうで、お昼ごはんも地味なメンバーと食べていた。運動神経は悪く学力も高いとはいえない存在。そしてクロールの息継ぎ時に見せる顔は鬼のような迫力さえあった。そんな近藤さんと少し会話しただけで?当然納得はできなかったが、この採点会は極力相手の意見を尊重してきたので駄々をこねる訳にもいかない。私は10位に位置する近藤さんの名前を見ながら「なんでだよ。。。」と心の中で泣いていた。

後日、いつも通りクラスメートの男子に成績表を渡すと、一同「え?近藤さんが10位?マジかよ!?」と当然の反応を見せる。岡野君は「まあまあ、たまにはこういうのもいいじゃない笑」と、笑って誤魔化していた。理由は直ぐに分かることになる。

数日後、学校から帰る際に自転車を停めている駐輪場へ向かうと、奥から岡野君が近藤さんを自転車の後ろに乗せて出てきた。。。あれ?ちょいちょいちょいちょい!「岡野!」と叫ぶと、岡野君はこちらに微笑を浮かべ、拳を天高く上げていた。

とったどー

どうやら岡野君と近藤さんは夏休みの間に交際に発展していたようだ。キッカケがどういうことからなのか定かではないが、採点仲間の私には言いづらかったようだ。そして採点会時に発した(「こないだ話したら意外に面白い人だったんだよ笑」)はもっとリアルだったということに気付いてしまった。あの時、共にバカなことをしているという認識だったのは私だけだったのだ。9月中旬、空は青く、太陽の陽射しは夏場程強烈ではなく、非常に心地よかった。そして、私達クラスの女子採点委員会はその青空の下で解散した。

それから岡野君と近藤さんはクラスの全員がウザがるバカップルとなっていく。一緒にお昼ごはんを食べ、放課後は直ぐには帰らずにクラスの端で談笑。岡野君から聞くのはサッカーやモーニング娘のことじゃなくて近藤さんのことばかり。

近藤さん脱いだら凄かった
⇒興味ないわ

近藤さん私服ロリっぽい
⇒お前はそれでいいのか?

近藤さん電話だとやたらと甘えてくる
⇒電話へし折ってやるからちょっとこい

近藤さん近藤さん近藤さん。Love Love Love。二人は二度と訪れない青春時代を時間の許す限り謳歌していた。まるで夏に鳴く蝉のように。ミーンとアーンでトーンは違うけど、彼らは一つになっていた。

しかし、蝉に終わるがくるように涼しい季節になる頃、二人は終わりを迎えた。早すぎでしょ?と思ったが、共に進路に対して真剣に考えた結果であり、嫌いになったわけではないというクソカップルクソ夫婦のような言い訳を残して幕は閉じた。

それから高校を卒業し私達は連絡さえ取らなくなっていく。たまに岡野君に会っても、当時の「オレ!今!サイコー!」程の充実感は得られてない模様。

そして先日、久々に岡野君に会って色々な話をし、最後は近藤さんの話になった。岡野君は目を細め、私にこう言った。

「逃した魚は大きかった」と。

そう、岡野君はまだ引きずっている。あの時の燃え上がるような恋を!近藤を!自身のこん棒を!私は「Facebookとかやってんじゃないの?」とアドバイスを送ると、岡野君は「その手があった!」と、クシャクシャの笑顔になった。岡野君は久々だというFacebookにログインし、友人検索から近藤さんを見つけた。

しかし・・・

「いた。。。あっ、子供いるんだね。。」と。どうやら近藤さんは結婚して子供と一緒に写っている写真をプロフィール画像にしているようだ。「幸せそうでなによりだよ」と岡野君は強気に語っていたが、心ではきっと号泣していたのだろう。強くなれ岡野。

岡野君と別れ、私も自分のFacebookにログインし、近藤さんのページを見てみた。加齢による体型の崩壊、鼻横にある謎の異物、そしてアヘ顔ダブルピースのプロフィール画像はもうマジ無理なクソBBAだった。そんな[プロフィール画像を変えました]に対し、そっと「うけるね」を押しておいた。

2016年。私はまだ腐ってる。空は今日も青い。また暑い季節が今年もやってくるー